税理士は難関資格のうちの一つであり、税理士業務は独占業務のため、独立開業にも向いている資格です。
そのため、学生だけでなく、既に社会人経験のある人でも一念発起して税理士を目指そう!と思っている人は多いと思います。
ただ、難関資格なうえに受験期間が長期化しやすいといわれている税理士試験。
実際に未経験で目指すなら現実的に何歳までが限度なのかなかなかイメージが沸かないですよね。
そこでこの記事では、夫婦ともに大学卒業後現在まで税務業界に入り浸っている私が
未経験で税理士を目指せる現実的な年齢
について、資格試験だけでなく資格取得後の就職先についても触れながら解説していきたいと思います。
税理士試験の概要
税理士試験は会計科目2科目、税法科目3科目の合計5科目に合格する必要があります。
【会計科目】簿記論、財務諸表論の2科目
【税法科目】所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税のうち3科目
※所得税法と法人税法のどちらか1科目は必須
一度に5科目を受験する必要はなく、1科目ずつ受験してもいいことになっていて、大体の人が1年に1~3科目ずつ受験していきます。
1科目単位で受験できるため挑戦のハードルが低い税理士試験ですが、その分受験期間は長期化する傾向があり、早くて3年、長いと10年単位でかかっている人も少なくありません。
税理士の働き方
税理士資格取得後の働き方としては以下の5つが考えられます。
- Big4(デロイト、EY、KPMG、PwC)
- 税理士法人
- 個人会計事務所・税理士事務所
- 一般事業会社の経理部・税務部
- 独立
ただし、税理士資格を持っているからといってどこでも好きなところで働けるわけではありません。
年齢や経験値により就職できる可能性は異なります。
未経験者の場合の採用可能性についてはこの後年代別に解説していきます。
未経験で目指せる現実的な年齢【年代別に解説】
それでは、実際に未経験で税理士を目指せる現実的な年齢はどのくらいなのか、年代別に解説していきます。
10代の場合
10代から税理士を目指す人は少数派かもしれないですが、資格を目指すのに早すぎることはありません。
むしろ10代から目指し、大学在学中に税理士試験を終えられるならそれが一番理想的です。
大学在学中に税理士試験を終えられれば、その後の就職先も(よほどコミュニケーション能力が低いとかでない限り)基本的には躓くことなく自分の希望する就職先を選ぶことができます。
大学受験が控えている場合は難しいですが、私立のエスカレーター式でそのまま附属の大学に進学する場合は高校生のうちからでも始めようと思えば勉強をスタートできます。
ただ、完全初心者で学校の授業等でも簿記を学んでいない場合、いきなり税理士試験の勉強はハードルが高いため、日商簿記3級→2級→税理士試験と段階を踏んでの勉強がおすすめです。
税理士試験の試験科目は会計学と税法に区分されていて、令和4年度まではどちらも受験資格があり大学1~2年では受験資格がなかったのですが、令和5年度の試験から会計学については受験資格の制限がなくなり、誰でも受験できることになりました。
そのため、
- 大学入学までに日商簿記2級まで終わらせ
- 大学入学と同時に税理士試験の会計学の勉強をスタート
- 大学2年で会計学(簿記論、財務諸表論)を受験する
- 大学3-4年で税法科目を受験する
という流れが理想的です。
税法科目については
- 学識による受験資格
- 資格による受験資格
- 職歴による受験資格
といった様々な分野の受験資格が定めていて、いずれか一つの要件を満たすと受験が可能となります。
受験資格の細かい内容については「税理士試験受験資格の概要|国税庁 (nta.go.jp)」で確認できます。
大学在学中に税法科目を受験する場合は、学識による受験資格のうち次の受験資格を満たすのが現実的です。
大学3年次以上で、社会科学に属する科目を1科目以上含む62単位以上を取得した者
※1 「社会科学に属する科目」には、改正前(令和4年度の税理士試験以前)の「法律学に属する科目」に該当していた、法学、法律概論、日本国憲法、民法、刑法、商法、行政法、労働法、国際法等、また、「経済学に属する科目」に該当していた、(マクロ又はミクロ)経済学、経営学、経済原論、経済政策、経済学史、財政学、国際経済論、金融論、貿易論、会計学、簿記学、商品学、農業経済、工業経済等の科目のほか、文系学部・理系学部を問わず、多くの学生に履修の機会があると考えられる、社会学、政治学、行政学、政策学、ビジネス学、コミュニケーション学、教育学、福祉学、心理学、統計学等の科目が該当します。 また、その科目が「専門科目」ではなく、いわゆる「教養科目」や「共通科目」として位置づけられている場合であっても対象となります。⇒詳細はQ&Aを参照してください
ちなみに、中卒・高卒の場合、学識による受験資格がないため、それ以外の項目で受験資格を得る必要があります。
おすすめは、職歴による受験資格です。中卒・高卒で税理士を目指せるかどうかについては以下の記事で詳しく紹介しています。
20代の場合
20代から税理士を目指す場合、個人的には一番ベストなタイミングだと思っています。
税理士試験は受験期間が長期化する傾向があり、早くて3年、長いと10年以上かかる人も珍しくありません。
20代前半から税理士を目指せば、早ければ大学卒業までに受験を終わらせることが可能です。
10代から税理士を目指す場合は日商簿記の受験をおすすめしましたが、20代から税理士を目指す人で大学等の授業で簿記を学んでいる場合は日商簿記を受けずに税理士試験に挑戦してもスムーズに勉強開始できると思います。(不安な場合は日商簿記2級→税理士試験でも○)
大学等の授業で簿記を学んだことのない全くの初心者の場合は日商簿記3級→2級→税理士試験と段階を踏んでの流れがおすすめです。
また、仮に20歳から勉強を始めて5年かかった場合も25歳までに受験を終わらせることができます。
大学卒業は23歳ですが、税理士試験では卒業後1~2年受験に専念する人は多いため、卒業後1~2年であれば同年代より就職が遅れても税理士業界の場合は全く問題なく、就職先も基本的には自分の希望どおりの就職先を選ぶことができます。
私は大学3年(21歳)時に税理士を目指すことを決め、大学院に進学し、28歳のときに無事税理士試験を終えることができました。
大学院卒業後(25歳)は受験に専念するため個人会計事務所で1年弱アルバイトをして、その後Big4に契約社員として入社(26歳)、1年後にBig4正社員(27歳)になりました。
Big4に契約社員として入社した時点では1科目合格のみです。
現在は当時より更に税理士業界全体で人手不足が加速しているので、20代後半でも科目合格者であればBig4や大手税理士法人希望の場合も問題なく就職できるかと思います。
ちなみに、21歳から目指して28歳合格だと税理士試験合格まで7年かかったように見えますが、21歳、22歳のときには結局税理士試験は受けず、初受験は23歳だったため試験を受けた期間は5年間です(5年間で3科目、残り2科目は免除)。
税理士を目指してから合格までの記録はまた別記事で紹介します。
30代の場合
30代の場合、税理士を目指し始める年齢として遅すぎるということはなく、十分合格してその後活躍できる年齢です。
ただし、その場合、とにかく早く勉強をスタートすることが重要です。
30代となると、20代と比べて環境面や能力面で以下のような違いが出てきます。
- 既に仕事をしている
- 結婚をして家庭を持っている
- 子供がいる
- 記憶力の低下
- 体力の低下
既に仕事をしていたり家庭を持っていたり更に子供がいる場合、圧倒的に勉強に使える時間が短くなります。
また、税理士試験は特に税法の場合、法律を丸暗記する必要があり、更に長期化する傾向にあります。
そのため、記憶力の低下でなかなか勉強が進まず20代と比べるとより受験期間が長期化し、体力の低下により途中で挫折するケースも少なくありません。
これらのことを踏まえると、30代で働きながら一から税理士を目指すのはかなりの覚悟が必要です。
今の就職先が税理士試験の受験に理解があり、残業もほとんどなく、試験前にまとまった休暇をとりやすい会社ならいいですが、一般事業会社でそのような会社はなかなかないですよね。
一方、会計事務所や税理士法人の場合は資格取得に理解がある会社がほとんどで、会社によっては試験前~試験当日まで試験休暇があるケースも少なくありません。
そのため、現在の仕事の状況と勉強の進み具合によっては会計事務所や税理士法人に転職した方がいい場合もあります。
また、30代から税理士を目指して税理士試験合格に5年かかったと仮定すると、30歳から始めても35歳、勉強開始が遅れたり受験期間が長期化した場合、40歳前後でやっと税理士試験に合格というケースも十分あり得ます。
Big4や大手税理士法人の場合、以下のような条件であれば30代でも就職が可能です。
- 30前半(32歳程度)で税理士試験合格済の未経験
- 30前半(32歳程度)で科目合格者、会計事務所等での実務経験あり
実際、私は1社目がBig4だったのですが、同部署に30前半で大学院免除を利用しての税理士試験合格者の方がいました。
しかし、30代後半になると、税理士資格の他に実務経験が必須となり、未経験の場合はマネジメント経験が求められてくるため、30代前半と比べるとBig4や大手税理士法人への就職は厳しくなります。
特にBig4では順調に昇進していくと30代前半でマネージャー、30代後半でシニアマネージャー、ダイレクター、40代でパートナーのため、30代後半未経験有資格で入社できたとしてもスタッフからのスタートだとかなり肩身が狭いというか居心地が悪いのではないかと思います。
そのため30代後半で税理士になった場合、就職先としては以下の3つが現実的です。
- 一般事業会社の税務部
- 中堅税理士法人(難易度は少し高め)
- 個人会計事務所・税理士事務所
ちなみに、独立という手段もありますが、資格取得=実務完璧とはならないため、独立する場合はその前にどこか事務所に所属し経験を積んでから独立という流れが一般的かなと思います。
40代の場合
40代では、30代と比べても更に環境面や能力面(体力、記憶力)から厳しい戦いになります。
しかし、40代では遅すぎるかというと、そんなことはありません。
以下は令和4年度の年齢別受験者数ですが、以下の表を見ると40代以上の人が受験者数の1/3以上を占めています。
令和4年度 年齢別受験者数 | 41歳以上 | 10,805人 |
36~40歳 | 4,407人 | |
30~35歳 | 4,581人 | |
26~30歳 | 4,131人 | |
25歳以下 | 4,929人 | |
合計 | 28,853人 |
令和4年度(第72回)税理士試験結果|国税庁 (nta.go.jp)
未経験者が40代で税理士試験に合格した場合の就職先としては以下の2つが現実的です。
- 一般事業会社の税務部
- 個人会計事務所・税理士事務所
中堅税理士法人への就職も個々のバックグラウンドによっては不可能ではないと思いますが、難易度がかなり高いため、現実的ではないかなと思います。
ちなみに上記、一般事業会社の税務部や個人会計事務所・税理士事務所でも完全未経験の場合採用されるかどうかは確実ではないため、40代で税理士を目指す場合、とにかくまずは日商簿記2級まで取得し、個人会計事務所・税理士事務所へ転職後、働きながら税理士を目指すのが現実的かなと思います。
50代以上の場合
50代となると、よほど有能な人でない限り最短3年での合格は難しいため、税理士合格はよくて50代後半、長期化した場合は60歳を超えるケースも否定できません。
そう考えると、さすがに一般事業会社の税務部や個人会計事務所・税理士事務所でも未経験者を採用する可能性はかなり低いです。
唯一考えられるのは一般事業会社に勤めていて、働きながら税理士資格を取得後、同じ会社の税務部へ異動するというケースですが、年齢を考えると50代から未経験の人を税務部へ異動させる会社があるかというとなかなか難しいですよね。
その場合資格取得後は独立ということになりますが、独立自体は可能でも未経験者に仕事がくるとは思えません。
そのため、未経験者が50代以上で税理士を目指す場合、税理士として仕事をして活躍していくというよりは生涯学習という趣味に近い感じかなと思います。
十数年~実務経験のある人が50代で税理士資格取得を目指す場合、実務経験は十分にありあとは資格だけという状況なので、資格取得後それまでの経験を活かして独立するケースは十分にあり得ます。
まとめ:未経験で税理士を目指すなら40代まで
この記事では、未経験で税理士を目指す場合、何歳までが現実的なのか年代別に解説してきました。
結論としては、未経験者の場合できれば30代、遅くて40代までが現実的なラインといえます。
しかし、税理士として仕事をして活躍していくということではなく、生涯学習という意味では何歳からでも遅くはありません。
実際、私が通っていた大学院には60代の方がいて生涯学習の一環として資格試験の勉強をしていました。(その方は税理士ではなく公認会計士志望でしたが)
また、税理士試験の長期化を避けたいという場合、税理士試験には科目免除制度というものがあるのでそちらも検討してみてください。