国家資格、その中でも会計分野の資格を取得したい、となったときによく比較されるのが税理士と公認会計士です。
私も最終的に税理士を取得しましたが、最初に税理士か公認会計士で悩んだ時期がありました。
そこで、この記事では税理士と公認会計士、目指すならどちらがいいのか
- 試験内容の違い
- 試験難易度
- 試験合格~登録の流れ
- 仕事内容の違い
- 税理士が向いている人
- 公認会計士が向いている人
をそれぞれ詳しく紹介していきたいと思います。
税理士試験と公認会計士試験
まずは税理士試験と公認会計士試験、それぞれの試験の内容の違いを詳しくみていきます。
試験制度
税理士試験 |
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公認会計士試験 |
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税理士試験と公認会計士試験で特に大きく異なるのは、
税理士試験が1科目ずつ受験可能で一度合格した科目は有効期限がなく永久的に取得科目とできるのに対し、公認会計士試験では短答式と論文式の2段階あり、短答式試験の合格有効期限は2年間のため、論文式試験に2年間落ちてしまうと短答式試験から受験しなおす必要がある
という点です。
1科目から受験できる税理士試験の方が取り掛かりやすく気軽に受験できますが、その分受験が長期化する可能性が高いです。
一方、公認会計士試験は一度に複数科目を勉強する必要があり短答式試験の合格有効期限は2年間のため受験ハードルは上がりますが、その分、税理士試験より受験期間は短く済む可能性が高いです。
もちろん公認会計士試験も、論文試験が一向に受からず短答式→論文式を何度も繰り返せば10年単位になることもありますが、周りを見ていると多くても2回繰り返した時点で合格できない人は諦めている印象です。(公認会計士試験はその試験制度から社会人をしながらの受験は難しく10年単位で受験専念は現実的ではないため)
その点、税理士試験は1科目ずつ受験することが可能なので、社会人として働きながら目指すことも可能です。
試験科目
税理士試験 | 【会計学】簿記論、財務諸表論(必須) 【税法】法人税法、所得税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税 ※消費税法と酒税法、住民税と事業税は選択制。(どちらか1つのみ選択可能) ※法人税法と所得税法のいずれか1科目は必須 |
公認会計士試験 | 【短答式試験】企業法、管理会計論、監査論、財務会計論 【論文式試験】監査論、租税法、会計学、企業法、選択科目(経営学、経済学、民法、統計学から1科目) |
試験科目は税理士試験の方が自由度が高いです。
税理士試験は会計学は固定2科目ですが、税法については試験合格後の仕事や科目難易度を考えながら自分で科目を選ぶことができます。
一方、公認会計士試験は基本的には試験科目は固定され、選択科目は1科目のみとなっています。
税理士試験の方がある程度自分で科目を選べるメリットがありますが、受からないからと受験科目をコロコロ変えすぎると結局どの知識も中途半端になったり、科目迷子になる可能性があるというデメリットがあります。
公認会計士試験は自由度が低い分、受験回数が増えるほど確実に各科目への知識は深まっていくというメリットがあります。
受験資格
税理士試験 | 【会計学】受験資格の制限なし。(令和5年度より) 【税法】学識による受験資格、資格による受験資格、職歴による受験資格 |
公認会計士試験 | なし |
受験資格については税理士試験が税法科目について受験資格を定めています。
学識・資格・職歴といくつか選択肢があるためそこまで受験資格の取得が高難易度というわけではないですが、公認会計士試験は受験資格がないため受験のハードルは公認会計士試験の方が低いです。
試験日程
税理士試験 | (令和5年度試験日程) 受験申込受付開始:令和5年5月9日 受験申込受付締切:令和5年5月19日 試験実施:令和5年8月8日~8月10日 合格発表:令和5年11月30日※ ※税理士試験の合格者(5科目揃った人のみ)を合格発表当日、官報に掲載する。 ※科目合格者は合格発表日以降順次自宅に合格/不合格通知が届く |
公認会計士試験 | (令和5年度試験日程) 第1回短答式試験 受験願書受付開始:令和4年8月26日 受験願書受付締切:令和4年9月9日 試験実施:令和4年12月11日 合格発表:令和5年1月20日 第2回短答式試験 受験願書受付開始:令和5年2月6日 受験願書受付締切:令和5年2月17日 試験実施:令和5年5月28日 合格発表:令和5年6月23日 論文式試験 試験実施:令和5年8月18日~8月20日 合格発表:令和5年11月17日 |
税理士試験は毎年5月頃に受験申込があり8月に試験実施、合格発表は11~12月あたりのためあまり複雑な点はありません。
一方、公認会計士試験は短答式試験が2回あるため、第1回短答式の受験申込~論文式試験の合格発表まで、トータルで1年超の期間が必要です。
短答式試験合格後2年以内に論文式に合格すればそこまで問題はないですが、論文式試験が2年目に繰り越されると、論文式試験の合格発表より前に第1回短答式試験の受験申込期間がやってきてしまいます。
そのため、今回の論文式に不合格だった場合、短答式試験からやり直しというケースでは、論文式の合否判定が出る前に短答式の申し込みをしなければならないということになります。
この後受験料について紹介しますが、公認会計士試験の受験料は安くはないため、論文式に合格していた場合受験料が丸々無駄になってしまうケースもあります。
また、論文式試験の合格発表の1か月後に第1回短答式試験の試験実施があるため、論文式があまり手ごたえを感じられなかったため不合格だった場合に備えて論文式の試験後すぐに短答式の勉強を始めたけど、予想に反して論文式に合格したため短答式の勉強は不要だった、となる可能性もゼロではありません。
受験料
税理士試験 | 1科目:4,000円 2科目:5,500円 3科目:7,000円 4科目:8,500円 5科目:10,000円 |
公認会計士試験 | 19,500円 |
税理士試験は1科目ずつ受験可能なため、これだけ見ると税理士試験の方が受験料が安いという印象ですが、税理士試験はすべての科目を一発で合格できる人は稀で、大体の人は(特に税法の場合)1科目を何度も受験することになります。
例えば4年で5科目に合格した場合以下のようなスケジュールが考えられるのですが、この場合のトータルの受験料は22,000円です。
- 1年目 簿記論・財務諸表論・消費税法 7,000円
- 2年目 簿記論・消費税法 5,500円
- 3年目 法人税法・事業税 5,500円
- 4年目 法人税法 4,000円
19,500円と22,000円で考えるとそこまで差はないですが、4年で5科目合格できるのはかなり優秀なケースで、5年~10年かかるのが一般的なのでトータルの受験料でいうと税理士試験の方が高額になる可能性が高いです。
試験スケジュール
税理士試験 | 1日目 9:00 – 11:00 簿記論 12:30 – 14:30 財務諸表論 15:30 – 17:30 消費税法又は酒税法 2日目 9:00 – 11:00 法人税法 12:00 – 14:00 相続税法 15:00 – 17:00 所得税法 3日目 9:00 – 11:00 国税徴収法 12:00 14:00 固定資産税 15:00 – 17:00 住民税又は事業税 |
公認会計士試験 | 短答式試験 9:30~10:30 企業法 11:30~12:30 管理会計論 14:00~15:00 監査論 16:00~18:00 財務会計論 論文式試験 1日目 10:30~12:30 監査論 14:30~16:30 租税法 2日目 10:30~12:30 会計学 14:30~17:30 会計学 3日目 10:30~12:30 企業法 14:30~16:30 選択科目 (経営学、経済学、民法、統計学) |
試験スケジュールは、税理士試験は基本的に3日間のうち自分が申し込んだ科目のみを受験します。そのため、簿記論・財務諸表論・消費税を一度に受験する場合は1日目に丸1日試験を受ける必要がありますが、受験科目を選べば1日1科目ずつ合計3科目ということも可能です。
一方、公認会計士試験の場合、短答式は1日に4科目受ける必要があり、また、論文式は丸3日間試験が続くので、かなりの体力勝負になります。
合格基準
税理士試験 | 各科目60%。 会計学2科目、税法3科目の合計5科目が揃ったときに合格者となる。 |
公認会計士試験 | 短答式試験 総得点の70%。但し1科目につき満点の40%を満たさず、答案提出者の下位から33%の人数に当たる者と同一の得点比率に満たない者は不合格。 論文式試験 52%の得点比率が目安。但し1科目につき得点比率が40%に満たないもののある者は不合格とすることができる。 ※短答式試験および論文式試験において免除の適用を受けた試験科目がある場合は、免除科目を覗いた他の科目の合格得点の比率によって合否が判定される。 |
税理士の合格基準は各科目60%で、会計学2科目・税法3科目の合計5科目に合格した時点で税理士試験の合格者となります。
公認会計士試験は一律何%ではなく、細かく合格基準が設定されています。また、トータルで合格点を取っていても科目別に見たときに満点の(または得点比率)40%を満たさない科目がある場合は不合格になってしまうなど苦手科目が足を引っ張ってしまうケースがあります。
そのため、税理士試験は一つの科目を突き詰めていく勉強スタイル、公認会計士試験は複数科目を満遍なく勉強していくスタイルといえます。
学習時間目安
税理士試験 | 簿記論:450時間 財務諸表論:450時間 法人税法:600時間 所得税法:600時間 相続税法:450時間 消費税法:350時間 固定資産税:250時間 事業税:200時間 住民税:200時間 酒税法:150時間 国税徴収法:150時間 ※TACの講義時間は含まれていますが、理論の暗記に要する時間は個人差があることから、学習時間には含まれていません。 |
公認会計士試験 | 3500~4000時間以上 (1年~3年) 入門基礎期:1日4~7時間 上級期 :1日7~10時間 ※TACでの講義時間+復習時間を含めた目安です。 |
学習時間目安についてはインターネット上で様々な記事があがっていますが、上記はTACが公表している学習時間目安となります。
税理士試験で、仮に簿記論・財務諸表論・消費税法・法人税法・事業税の5科目を選択した場合の学習時間目安は2,050時間(+理論暗記に要する時間)です。
税理士試験の税法科目は理論(税法)を丸暗記してやっとスタート地点とも言えるため、理論暗記に要する時間もそれなりにかかってきます。また、会計科目の財務諸表論も理論があり暗記が必要なため、ざっくり理論1,000時間と仮定すると3,000時間程度の想定になります。
ただし、これはあくまでも目安時間で、一度でも受験したことがある人ならこの学習時間目安は全く参考にならないと身をもって感じているはずです。
実際のリアルな勉強時間については以下の記事で紹介しているので参考にしてみてください。
TACが公表している学習時間目安をみると公認会計士試験の方が必要な勉強時間が多いですが、税理士試験はハマってしまうと1科目に5年10年かかるため、トータルの勉強時間でいうと税理士試験の方が多くなる可能性が高いです。
しかし、税理士試験は1科目から受験可能なため社会人として働きながらでも目指しやすいですが、公認会計士試験は短答式試験の合格が2年間しか有効ではないため、短期間で成果を出す必要があり社会人として働きながら目指すにはかなり難易度が高い資格になります。
試験免除制度
税理士試験 | 一定の大学院に進学し、研究指導に基づく学位論文を国税審議会に提出し審査に合格した場合試験科目の一部を免除することができる。(以下3ケース)
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公認会計士試験 |
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税理士試験、公認会計士試験ともに科目免除制度が設けられています。
大学院進学による科目免除制度を利用する場合など、ただ試験を受けるだけと比較すると多額の費用がかかるケースもありますが、受験期間を短縮したい場合は積極的に活用したい制度となっています。
税理士試験の科目免除制度については別記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。
試験難易度
これまで税理士試験と公認会計士試験の違いについて詳しく紹介してきましたが、試験難易度という意味では、一般的には公認会計士試験の方が難易度が高いとされています。
税理士・公認会計士だけでなく様々な資格を分野、難易度、学習期間別にまとめたデータは別記事で紹介しているので興味がある方は見てみてください。
一般的には公認会計士試験の方が難易度が高いとされていますが、学習内容が一部被っているとはいえ試験範囲も受験スタイルも異なるため、実際にどちらが難易度が高いかは各個人に依る部分があります。
例えば、税理士試験では理論がある科目は法律をほぼ丸暗記してスタート地点、というところがあるため、暗記が苦手な人は公認会計士試験より税理士試験の方が難易度が高いと感じるケースもあります。
また、一つの科目を深くじっくり勉強するのが得意なのか、同時に複数の科目を浅く効率的に勉強するのが得意なのかによっても体感的な試験難易度は変わってきます。
自分にとっての試験難易度を考えるときは、自分が何が得意で何が苦手なのか?を合わせて考えてみてください。
試験合格後登録までの流れ
税理士 | 【登録まで】
【登録後】
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公認会計士 | 【登録まで】
※2年以上の実務経験がある場合は通学期間の短縮可能 【登録後】
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税理士も公認会計士も登録までに通算2年以上の実務経験が必要なのは同じですが、公認会計士の場合は試験合格後も補習所通学を行い、修了考査に合格する必要があるので合格~登録までは公認会計士の方が大変です。
また、登録後に毎年研修の受講が必要なのは税理士も公認会計士も同様ですが、公認会計士は研修の義務不履行者は最悪登録抹消の対象となるため、罰則という面で公認会計士の方が厳しいといえます。
税理士と公認会計士の仕事内容
国家資格の取得においてよく比較対象となる税理士と公認会計士ですが、仕事内容は大きな違いがあります。
まず、税理士も公認会計士も独占業務を持つ国家資格ですが、独占業務の内容はそれぞれ以下のとおりです。
税理士 | 税務書類の作成 税務代理 税務相談 |
公認会計士 | 財務諸表監査 |
税理士は、法律で定められた納税義務の適正な実現を図ることを目的に、税務申告書類の代行作成や税に関するアドバイス(節税等)を行います。また、税務に限らず、日々の資金管理から記帳代行や決算業務など財務諸表作成業務までを包括して担うケースも多いです。
一方、公認会計士は投資家や債権者保護のため、会社が作成した財務諸表が正しく作られているかを第三者の立場から監査します。
税理士業務は個人で活動が可能ですが、監査は必ず監査チームを組んで行う必要があるため独立開業向きなのは税理士資格です。
公認会計士で独立する人も多くいますが、監査は個人では行えないため、独立開業した場合は基本的に公認会計士として税務業務を行うことになります。
公認会計士登録をしている場合、税理士/行政書士にも登録可能なため、公認会計士でも独立開業して税理士業務を行うことができますが、税法や税務に関する知識を改めて深く学ぶ必要があるため、”公認会計士をとった方がお得”という考えで公認会計士を目指すのは危険です。
税理士が向いている人
これまで、税理士と公認会計士について様々な面から比較してきました。
これらを踏まえると以下のような人が税理士に向いているといえます。
仕事内容 |
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受験環境 |
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公認会計士が向いている人
これまでの点を踏まえると、以下のような人が公認会計士に向いているといえます。
仕事内容 |
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受験環境 |
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まとめ:税理士と公認会計士の違い
この記事では、税理士と公認会計士について様々な面から比較してきました。
どちらも会計の専門家という点では共通していますが、試験制度・資格取得後の働き方には大きな違いがあります。
現在の自分の生活環境からどのような受験環境が望ましいのか、また、将来どのようなキャリアを積んでいきたいのかをじっくり考えて最適な選択を見つけてください。
税理士・公認会計士だけでなく様々な資格を分野、難易度、学習期間別にまとめたデータは別記事で紹介しているので興味がある方は見てみてください。